腎臓組織の障害
遺伝性疾患の中には、腎臓組織に悪影響を与えるものがあります。腎臓を主として全身に影響が及ぶ病気もあれば、全身を主として腎臓に影響が及ぶ病気もあります。詳しく見ていきましょう。
多発性のう胞腎
遺伝性の腎臓病としてまず挙げられるのが、「多発性のう胞腎」です。これは、常染色体優性のもの(ADPKD)と常染色体劣性のもの(ARPKD)があり、両親から受け継がれる遺伝子対の一方に異常があることで起こるか、両方の遺伝子に異常があることで起こるケースで分けられます。両方の遺伝子に異常がある場合が常染色体劣性であり、母数が少ないことから劣性による発症例は少ないです。両親のどちらかがADPKDの場合は50%の確率で発症します。ARPKDは、異常が見られる遺伝子を父親と母親両方から受け継いだ場合にのみ発症します。
腎臓の障害が主で全身にも影響を及ぼすのが多発性のう胞腎です。腎臓内の腎実質と呼ばれる、尿を作る機能を司る部分に水分がたまった袋(のう胞)ができます。病気が進行すると、のう胞が少しずつ大きくなり増えていきます。それに伴い腎臓のサイズも大きくなり、腎実質が正常に働かなくなります。それでも、生命維持のためのバックアップ機能である代償機構が働くので、しばらくは機能が保持されます。しかし、代償機構すら正常に働かなくなるほど病気が進行すると、腎機能に障害が出ます。腎臓内にある尿細管の太さを調整するPKD遺伝子に異常が起こることで尿細管が拡がり、それがのう胞になるとされています。初期症状としては、腎臓内の集合管にのう胞が発生します。
全身が主の病気
遺伝性疾患が原因の腎臓病には、全身が主で腎臓に影響が及ぶケースもあります。例えば、「結節性硬化症」や「ファブリ病」は全身が主の病気です。結節性硬化症になると、脳や皮膚、心臓などの臓器に良性の腫瘍ができますが、その中に腎臓も含まれます。「TSC1」あるいは「TSC2」と呼ばれる遺伝子の異常によって起こるもので、上述の多発性のう胞腎を合併する可能性もあります。親からの遺伝によって発症するのは、全体の3分の1ほどです。ファブリ病は細胞内の酵素が低下し、細胞が正常に働かなくなり糖脂質が分解されない病気です。全身に症状が出ますが、その中でも腎臓のろ過機能が正常に働かなくなるケースを「腎ファブリ病」と呼びます。X染色体の異常によって引き起こされるため、X染色体を2本持つ女性は発症しにくいです。ファブリ病は、母親から子どもへ50%の確率で遺伝します。